野菜作りを始めると、必ず耳にする「鶏糞(けいふん)」
鶏糞は、ニワトリのふんを発酵・乾燥させた有機肥料の一つで、特に窒素(ちっそ)・リン酸・カリウムをバランスよく含んでいるため、作物の生育を促す力が強いとされています。
ホームセンターでも安価で手に入りやすく、家庭菜園からプロの農家まで幅広く利用されています。
しかし、鶏糞は万能な肥料ではありません。
実は、野菜の種類によっては鶏糞が合わず、逆に成長を妨げてしまうこともあるのです。その理由には、鶏糞特有の成分特性や土壌への影響が関係しています。
この記事では、
鶏糞の基本的な成分と影響
鶏糞が合わない野菜の種類
失敗例や注意点
鶏糞の代わりになる肥料
について、わかりやすく解説していきます。
これから野菜作りを始める方や、肥料選びで失敗したくない方は、ぜひ参考にしてください。
第1章:鶏糞の成分とその影響
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鶏糞に含まれる主な栄養素
鶏糞は、有機肥料の中でも特に栄養価が高いことで知られています。
主に含まれているのは、以下の3つの成分です。
窒素(N)
植物の葉や茎の成長を促進します。葉物野菜などにとっては重要な成分ですが、過剰に与えると徒長(ひょろひょろと伸びすぎる現象)の原因になります。リン酸(P)
根の発育を助け、花や実の付き具合を良くします。果菜類(トマト、ナスなど)に特に効果的です。カリウム(K)
茎を丈夫にし、病害虫への耐性を高めます。根菜類(ジャガイモ、大根など)にも必要な成分です。
さらに、鶏糞にはカルシウムやマグネシウムなどの微量要素も豊富に含まれており、植物全体のバランスの取れた生育をサポートします。
鶏糞特有のアルカリ性と速効性
鶏糞の特徴として、以下の2点も重要です。
アルカリ性を示す
鶏糞はpH値が高く、土壌をアルカリ性に傾ける作用があります。
一部の野菜(サツマイモ、ブルーベリーなど)は酸性土壌を好むため、鶏糞を使うと生育不良になる恐れがあります。速効性が高い
鶏糞は、発酵が進んでいるものほど速効性があり、施してすぐに栄養が効きます。
しかし、逆に肥料分が一気に効きすぎると、若い苗には強すぎて肥料焼け(根が傷む現象)を起こすリスクもあります。
まとめ
つまり、鶏糞は栄養豊富で即効性の高い肥料ですが、土壌のpH変化や肥料の効きすぎには注意が必要です。
この特性が、特定の野菜にとっては「合わない」とされる原因になっています。
第2章:鶏糞が合わない野菜一覧
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鶏糞は栄養豊富な肥料ですが、その特徴(アルカリ性・速効性)により、相性の悪い野菜も存在します。ここでは、鶏糞が合わない代表的な野菜を紹介します。
酸性土壌を好む野菜
鶏糞は土壌をアルカリ性に傾けるため、酸性の土壌を好む野菜には適しません。
具体的には、以下の野菜が該当します。
サツマイモ
サツマイモは弱酸性(pH5.5~6.0)の土壌を好みます。土壌がアルカリ性に傾くと、根が太らず収量が激減します。ジャガイモ
ジャガイモも酸性寄りの土壌を好みます。アルカリ性の土では「そうか病」(皮がざらざらになる病気)を引き起こしやすくなります。ブルーベリー(※果樹ですが例外的に記載)
極めて酸性(pH4.5~5.5)を好むため、鶏糞とは非常に相性が悪いです。施肥すると枯れてしまうこともあります。
これらの作物には、鶏糞ではなく、酸度調整を行った腐葉土やピートモスなどの酸性資材を利用するのが適しています。
肥料分が多すぎると生育に悪影響が出る野菜
鶏糞は窒素分が豊富なため、窒素過多になりやすい野菜にも注意が必要です。以下がその例です。
ニンジン
肥料分が多すぎると根が二股に割れる「又根(またね)」になりやすく、品質が落ちます。大根
ニンジンと同様、過剰な栄養分で又根が発生しやすくなります。また、葉ばかりが茂り、肝心の根が太らないこともあります。玉ねぎ
初期に肥料分が多すぎると葉が育ちすぎ、逆に玉が大きくならない「小玉」になる原因になります。
これらの野菜では、元肥(植え付け前に施す肥料)は控えめにし、必要に応じて生育途中で少量ずつ追肥(ついひ:後から肥料を足すこと)するのが基本です。
第3章:具体的な失敗例と注意点
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鶏糞は栄養が豊富なぶん、使い方を間違えると、野菜作りに大きなダメージを与えてしまいます。ここでは、実際によくある失敗例と、鶏糞使用時に注意すべきポイントをまとめます。
鶏糞使用による失敗例
1. 根菜類の又根(またね)
大根やニンジンに鶏糞を施しすぎると、根が二股に分かれる「又根」が発生します。
これは、肥料成分の濃度が高すぎることで、根が正常に伸びられなくなるためです。また、未熟な(十分に発酵していない)鶏糞を使うと、ガス障害(アンモニアなどによるダメージ)を引き起こすこともあります。
2. ジャガイモのそうか病
ジャガイモは、鶏糞によるアルカリ性土壌で「そうか病」が発生しやすくなります。
そうか病にかかると、ジャガイモの表皮がざらざらになり、商品価値も大きく下がってしまいます。
3. 肥料焼けによる苗の枯死
鶏糞を植え付け直前に施しすぎると、苗が肥料焼けを起こして枯れてしまうことがあります。
特に若い苗や根の弱い野菜(レタス、ホウレンソウなど)は、肥料の濃度に敏感です。
鶏糞使用時の注意点
1. 完熟鶏糞を使う
市販の鶏糞でも、「完熟(かんじゅく)」と書かれたものを選びましょう。未熟鶏糞は発酵が不十分で、アンモニアガスや発熱による害をもたらす危険性があります。
2. 土にすき込んだ後、1~2週間置く
鶏糞を土に混ぜ込んだ後は、最低でも1〜2週間、できれば3週間程度おいてから種まきや苗植えを行いましょう。
これにより、土壌内のガスや過剰な成分を自然に落ち着かせることができます。
3. 元肥に少量、追肥は控えめに
鶏糞を元肥(植え付け前の肥料)として使う場合は、少量を土によく混ぜ込むのが基本です。
追肥(生育途中に足す肥料)には、即効性のある液体肥料など、よりコントロールしやすいものを使う方が失敗が少なくなります。
第4章:鶏糞の代替肥料
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鶏糞が合わない野菜を育てる場合や、土壌の状態に不安があるときは、鶏糞以外の肥料を選ぶことが大切です。ここでは、鶏糞の代わりに使える肥料と、それぞれの特徴について紹介します。
鶏糞の代わりになる主な肥料
1. 牛糞堆肥(ぎゅうふんたいひ)
特徴:緩やかに効く有機肥料で、土壌改良効果が高い
適した使い方:土をふかふかにする目的で使用。速効性は低いが、野菜の根張りを良くしたいときに向いています。
※牛糞堆肥は基本的に中性~弱酸性なので、酸性を好む野菜にも使いやすいです。
2. 馬糞堆肥(ばふんたいひ)
特徴:牛糞よりもやや速効性があり、保水性・排水性を高める効果がある
適した使い方:根菜類(ニンジン、大根など)や、乾燥を嫌う野菜に。
3. 米ぬか
特徴:リン酸が豊富で、微生物を活性化させる効果がある
適した使い方:堆肥の材料として混ぜ込んだり、畑に少量ずつまいて土壌改良に活用。
※生の米ぬかは発酵熱を出すため、直接たくさん撒くのは避けましょう。
4. 化成肥料(かせいひりょう)
特徴:窒素・リン酸・カリウムがバランス良く含まれた人工肥料
適した使い方:即効性が必要な場合に使用。量を細かくコントロールできるので、初心者にも扱いやすいです。
※化成肥料には速効性タイプと緩効性(ゆっくり効く)タイプがあるので、作物に応じて選びましょう。
野菜に合わせた肥料選びのポイント
酸性土壌を好む野菜には、アルカリ性肥料を避ける
肥料を入れすぎず、適量を守る
発酵が進んだ有機肥料を使う
これらを意識するだけで、失敗をぐっと減らすことができます。
おわりに
鶏糞は、栄養価が高くコストパフォーマンスにも優れた素晴らしい肥料です。
しかし、その強い効果ゆえに、すべての野菜に適しているわけではないことを理解することが大切です。
特に、酸性土壌を好む野菜や、肥料成分に敏感な根菜類には注意が必要です。
「この野菜には鶏糞が向いているか?」と一度立ち止まって考え、必要に応じて他の肥料を選択する柔軟さを持つことが、家庭菜園や農業を成功させるポイントになります。
また、鶏糞を使う場合は
完熟品を選ぶ
すき込み後に時間をおく
使用量を控えめにする
など、基本的な注意点をしっかり守ることで、トラブルを防ぐことができます。
「肥料選びも野菜作りの一部」と捉え、植物の声に耳を傾けながら、よりよい土作りを目指していきましょう!

